わたし以外、誰もこの世におらぬ存在だ・・・リーディング時代小説「茶々ってば」⑩:神戸御影ヒーリングサロン 心星 POLARIS(ポラリス)

わたし以外、誰もこの世におらぬ存在だ・・・リーディング時代小説「茶々ってば」⑩

2018.05.11

 

生きて生きて、生き延びてきたのは、彼のためにだけ・・・リーディング時代小説「茶々ってば」①

 

わたしは愛されている、という自信がない・・・リーディング時代小説「茶々ってば」②

 

傷つくのが怖い、心を閉じていれば何も傷つくことはない・・・リーディング時代小説「茶々ってば」③

 

秀吉は、わたしが初めて身体を開いた男だった・・・リーディング時代小説「茶々ってば」④

 

欠けていたパズルのピースが、見つかった・・・・・・リーディング時代小説「茶々ってば」⑤

 

快感のあるフリが、男が喜ぶと女はみな知っている・・・リーディング時代小説「茶々ってば」⑥

 

女は子種がどの男のものであるかは、わかります・・・リーディング時代小説「茶々ってば」⑦

 

女は楽器、それを奏でる男で音色は変わる・・・リーディング時代小説「茶々ってば」⑧

 

本当に欲しいものを、どれだけ人は自分に与えられるのか・・・リーディング時代小説「茶々ってば」⑨

 

 

天正17年5月27日、わたしは男子を出産した。

 

初めての出産は、とても苦しかった。

身を八つ裂きにされるような痛みだった。

張り裂けそうな痛みの中で

「母上はこれを3度も体験したのだ・・・」

と思うと、改めて母上の強さがわかった。

もう無理だ・・・と思った時、股間からズルリと赤子が出てくるのがわかった。

 

「茶々様、おめでとうございます!!

男の子でございます!!」

大蔵卿局が涙を流しながら、生まれたばかりの赤子を抱かせてくれた。

 

これが

これが、わたしの子か。

男子であることに、心から安堵した。

 

真っ赤な顔をし元気な声で泣く我が子を抱いて、不思議な気持ちだった。

その時、乳房からピュッ、と白い乳が漏れ出た。

思わず、乳を生まれたばかりの赤子にふくませた。

赤子は、無心にわたしの乳を吸う。

これまでに感じたことのない愛おしい気持ちだった。

生まれてから初めての感情が湧き出た。

 

ああ、我が子だ。

まちがいなく、わたしの子だ。

乳を飲み、満足して眠る我が子は、いくら見ていても飽きなかった。

愛おしくてたまらない。

 

しかも、この子が豊臣の跡取りだ。

秀吉の後を継ぐ男子だ。

そしてこの子が、わたしを最高の地位と権力につながる道筋を作ってくれた・・・

 

神がこの世にいるならば、どれだけ感謝してもし足りない。

わたしは心から神に感謝をささげた。

 

秀吉は男子誕生の知らせを聞き、すぐにやってきた。

「おお、これが我が子か。

なんとも、可愛いではないか、のう茶々?

よしよし、父がわかるか?

天下はお前のものじゃぞ。

豊臣は、お前が継ぐのじゃぞ。」

 

まだ何もわからない赤子に向かって、嬉しそうに語りかける彼は53歳だった。

 

53年間生きてきて、ようやく我が子を抱けるのだ。

噂によると、ずいぶん前、他の側室との間に子をもうけたらしい。

男子だったが、6歳で夭逝したらしい。

が、秀吉はこのことに対して、口をつぐんでいる。

伯父上の家来だった頃の話だそうだ。

 

今の秀吉とは立場がちがう。

それでも子を亡くす悲しみを知っているせいか、はた目から見ても異常なほどの溺愛ぶりだった。

 

「この子の名は?」

わたしはずっとそれが気になっていた。

 

「そうよ、この子は棄(すて)と名付ける。」

 

はぁ?

心の中で、何なの、その名前は?

とあっけに取られた。

 

周りの者たちも、口をぽかん、と開けている。

 

「あの・・・どうして、棄などという名に?」

 

「おう、茶々は知らぬか?

棄て児はよく育つと、巷では言われておる。

わしは、この子に長生きし、末永く豊臣の繁栄を託したいんじゃ。」

 

ああ、これが農民出の男の発想なのね・・・

わたしは寧々のことを思い出した。

もしや、これも寧々の案なのでは・・・

 

妻である寧々も、この子の誕生は耳にしているはず。

これから寧々とも、うまくやっていかねばならない。

 

わたしは不満を笑顔でくるみ言った。

「そうですね。

あなた様の言と通りにいたしましょう。」

そう口では言いながら、自分から「棄」などという名は口にしなかった。

してたまるか。

 

お前の子ではない。

建前は、お前の子だ。

だけど、この子はわたしのものだ。

わたしが産んだ愛おしい子だ。

 

そして城には、続々と祝いの品が届いた。

置き場もなくなるほどで、それらはうず高く積まれた。

そのあまりの多さと煌びやかさが、秀吉の権力を示していた。

 

これが最高位の権力か。

これを我が子が継ぐのだ。

 

わたしが豊臣の後継ぎの生母だ。

この子の母は、わたし以外、誰もこの世におらぬ存在だ。

わたしは誇らしかった。

この子が、わたしの生きがいだった。

 

朝起きたらすぐに、我が子を連れてこさせ抱き寄せた。

日中もできるだけ、そばに置いた。

夜も乳母に連れて行かれるのが、さみしかった。

乳母に連れて行かれた後は、半身がもがれたようにぽっかり穴が空いた。

飲ませぬ乳がでる乳房の張りが痛かった。

 

治長

治長は、もちろんこの子を抱いてなどいない。

この子は、わたしと秀吉の子だ。

他の家来と同じく、この子に頭を下げている。

 

だが、ちらと頭を上げた瞬間、誰にもわからぬようこの子を見て、この上もない笑みを浮かべすぐひっこめた。

わたしはその笑みに救われると同時に、心が痛くなる。

あの猿のような秀吉に似ず、この子の赤子ながら整った顔は、幼い頃の治長にどことなく似ているだから。

それを知って、結びつけるのは、治長とその母の大蔵卿局だけだ。

 

「若君様は、すくすくとお育ちです。

乳もよく飲んでおります。

だが、安心してはなりませぬ。

男子は幼い頃は、女子に比べ身体が弱いのです。

いつ、災厄に見舞われるかわかりませぬ。」

 

大蔵卿局の言葉に、身震いした。

 

「そんな不吉なことを、言わないでちょうだい。

この子に限って、そんなことはない。

この子の身体は強いはずだ。

なぜなら・・・」

 

「淀様!」

 

大蔵卿局はピシャリとさえぎった。

 

「そうです。

秀吉様のお子様ですから、お身体は強うございます。

ですが、念には念を入れたほうがようございます。」

 

「わかった。

これまでにも増して、あの子を大切にしてやって

乳母にも良くしてやって。

いい乳が出るよう、食べ物も気をつけてやって。」

 

我が子が生まれた時、他の夫婦は一緒に子を抱き喜ぶのだろう。

わたしはこの城で一人だ。

秀吉は、離れた大阪城にいる。

 

だが、父は・・・

名乗れぬ遺伝子上の父親は、すぐそばにいるのだ。

我が子を抱きしめられないまま。

 

外は雨が降っていた。

雨は心も身体も濡らす。

あの大きな波のような快感を身体が覚えていた。

子を産み落ち着いた子宮が、男を迎えたがっている。

忘れよう

わたしは母だ。

女ではなく、母として生きるのだ。

 

やがて、秀吉が我らを大阪城に迎え入れることになった。

子供の名前は「棄」から「鶴丸」に変わった。

 

 

わたしと鶴丸、そして大蔵卿局や治長達、生まれた時からそばにいる者たちとみなで、大阪城の門をくぐった。

 

腕に鶴丸を抱き、堂々と入城した。

ついに、ここまで来た。

 

 

——————————–

 

あなたはどんな存在ですか?

 

無条件に愛されている、と言えますか?

 

自信がありますか?

 

 

あなたが無条件で愛されている、と自分で決めるだけでそうなります。

 

愛されるのに、なんの条件もいりません。

 

条件はすべて、あなたがつけているだけです。

 

 

 

 

したたかに生きる

 

美開女(Be.Akujo)への二歩目。

 

 

 

 

 

 

 

 



Copyright © POLARIS-SAKURA All Right Reserved.